大石直紀『京都一乗寺 美しい書店のある街で』(光文社文庫)

 京都の街角から、書店が次々と姿を消していっている。
 四条通ジュンク堂が閉店し、北大路の大垣書店も向かいのビブレに移った。うちの図書館に納入していた近所の本屋さんも店を畳んだ。このあいだ四条大宮西大路四条にあったブックファーストも相次いで閉店したので、阪急西院駅には、ずっと昔からあるけれどブックファーストに押されて品揃えをマニアックに特化させたパピルス書房だけとなってしまった。何年振りかで自動ドアの中に足を踏み入れ、ほとんどなくなってしまった文芸書の中からとりあえず手にしたのが『二十年目の桜疎水』だった。
 ふたたびパピルス書房に赴き、隣に立ててあった文庫本をレジに運ぶ。

 舞台は実在の「恵文社一条寺店」。「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれた書店として知られる。あれは書店というよりも、恵文社という特別な空間なんだと思う。
 その一乗寺商店街を舞台に4つのストーリーが紡がれる。それぞれに読み終えた後、心の奥にぽっと火がともる。桜疎水よりも、こっちの方が好きだ。

 帰りに寄る本屋がない。
 ・・・と思いながら、アマゾンと楽天ブックスのボタンを今日もぽちっと押してしまった。
 こうしてまた、街角から書店が消えていく。 

京都一乗寺 美しい書店のある街で (光文社文庫)

京都一乗寺 美しい書店のある街で (光文社文庫)

  • 作者:大石 直紀
  • 発売日: 2020/12/09
  • メディア: 文庫
 

 

(こ)