池澤夏樹=個人編集 日本文学全集13『樋口一葉 たけくらべ/夏目漱石/森鴎外』(河出書房新社)

久々の池澤夏樹個人編集・日本文学全集。今回は『樋口一葉 たけくらべ夏目漱石森鴎外』。

樋口一葉は「たけくらべ」,夏目漱石は「三四郎」,森鴎外は「青年」を収録。どれも一度は読んだことがあるが(おそらくまだ自宅に本もある),「たけくらべ」が川上未映子の現代語訳ということもあって,この際,改めて読んでみることにした。

 

樋口一葉たけくらべ」(川上未映子訳)

良い。すごく良い。樋口一葉が現代によみがえって新たに書き下したら,たぶんこんな風になるだろう。

かつて読んだ時は文語体だった(かなり苦労した)。それが雰囲気を崩さないまま,現代語訳に生まれ変わった。Amazonのレビューをみると賛否両論あるけれど,僕は十分,ありだと思う。川上未映子に感謝。

それにしても,子供たちの心情をリアルに描き出した秀作であるし,また優れた群像劇でもある。発表は明治28年(1895年)。よく書いたなぁ。

 

夏目漱石三四郎

冒頭の汽車のシーン。ああ,漱石の作品だ,と久々に思う。

やはり美禰子のキャラクターが良い。不思議なことに,今読んでも新鮮な感じがする。「stray sheep」は日本文学史上に残る名言であろう(あくまでも個人の感想です)。

名言といえば広田先生の「亡びるね」も挙げておきたい。明治時代だけでなく,現代の僕たちにもストレートに響く。

 

森鴎外「青年」

漱石の「三四郎」が明治41年に連載され,翌年に単行本化。これに対して鴎外の「青年」は明治43年に連載。池澤夏樹の解説にもあるけれど,こうやって並べて読むと,鴎外は「三四郎」を相当意識して「青年」を書いたようにうかがわれる。

何しろ構図がそっくり。地方から上京。実家からの仕送りで生活。調子の良い友人。気になる女性。宴会とか菊人形とか芝居見物とか,共通点を挙げるときりがない。

一方で,「青年」は「三四郎」のアンチテーゼでもある。三四郎は美禰子にほのかな恋愛感情を抱くが,「青年」の純一は坂井夫人とは恋愛感情を飛び越えて大人の関係になる。三四郎にとって与次郎は親友だが(借金の頼みにも応じる),純一にとって瀬戸は軽蔑の対象でもある(借金の頼みも断っている)。

まあ,こんな読み方ができるのも全集ならでは。良い読書ができた。


(ひ)