その声は,誰かに届くのだろうか。町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』。
九州の片田舎に引っ越してきた女性・三島貴湖。ある日,虐待が疑われる中学生くらいの子供と出会う。子供は言葉を発することができない。そしてまた貴湖自身も,凄惨な過去を抱えていた・・・。
52ヘルツのクジラとは,他のクジラが聞き取ることのできない,高い周波数で鳴くクジラのことをいう。それゆえその鳴き声は,他のクジラには,届かない。
つらい境遇にある。そしてそのような境遇にあることを,誰にも伝えられない。本作品は,そのような人たちの苦悩を「52ヘルツのクジラ」に重ねて紡いでいくという,切なくて悲しく,それでいていとおしい物語である。
「わたしは,あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ。」――この一言が,心に響く。
- 作者:町田 そのこ
- 発売日: 2020/04/18
- メディア: 単行本
(ひ)