町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)

その声は,誰かに届くのだろうか。町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』。

九州の片田舎に引っ越してきた女性・三島貴湖。ある日,虐待が疑われる中学生くらいの子供と出会う。子供は言葉を発することができない。そしてまた貴湖自身も,凄惨な過去を抱えていた・・・。

52ヘルツのクジラとは,他のクジラが聞き取ることのできない,高い周波数で鳴くクジラのことをいう。それゆえその鳴き声は,他のクジラには,届かない。

つらい境遇にある。そしてそのような境遇にあることを,誰にも伝えられない。本作品は,そのような人たちの苦悩を「52ヘルツのクジラ」に重ねて紡いでいくという,切なくて悲しく,それでいていとおしい物語である。

「わたしは,あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ。」――この一言が,心に響く。

52ヘルツのクジラたち (単行本)

52ヘルツのクジラたち (単行本)


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