筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)

筒井康隆、自作を語る』を読んだ後,久々に筒井康隆の作品を読みたくなった。というわけで,『残像に口紅を』。

ことばを使った,実験的小説である。

日本語表記の「音(おん)」が,一つ一つ消える。それとともに,その「音(おん)」を使ったことばも,そしてその存在も消えていく。「あ」が消えると,「愛」も「あなた」も消えていく・・。

主人公は小説家・佐治勝夫。自分が小説の登場人物であることを知っており,いわゆるメタフィクションでもある。

パソコンのない時代に,よくもまあこんな実験小説を書いたなあ,と思う。特に中盤以降,使える「音(おん)」が激減した状態で,筒井康隆は昭和チックな男女の情交シーン(のパロディ)を描き,主人公に文学論の講演をさせ(既に「す」が消えているので「~です。」「~ます。」が一切使えない!),さらにわずかな「音(おん)」のみで詩を吟じる。

僕が読んでいるこの作品は,小説なのか,それとも筒井康隆の壮大な「芸」を見ているのか・・・。

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)


(ひ)