ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(上・下)』(河出書房新社)

 4人のホモ・サピエンスがテーブルを囲んで食事をしている。2匹は大人で、2人は子どもである。この4人が200万年前のサバンナにタイムスリップして投げ出されてしまえば、あっという間に野獣の餌食になるか、食料を得られずに飢え死にしてしまうことだろう。今、世界中の何億人というサピエンス達が、新型コロナウィルスに感染することを防ぐために、外出を控えて家に閉じこもっている。サピエンスが食物連鎖の頂点に君臨し、地球規模での繁栄を短期間のうちに実現できたのは、このように、見えないものを信じて集団で行動できるという能力のおかげなのだ。 

・・・という理解でいいのかな?

 ジャレド・ダイアモンド積ん読をクリアしたからには、もうひとつの積ん読もクリアせねば、と、今さらにして『サピエンス全史』に手をつける。
 内容についてはいろんな特集記事が書かれたりNスペでも見たりしたので、すでに読んだ気になっている(あかんやん)のだが、ちゃんと読むと、やはりおもしろい。

 6種類いた人類の中で、なぜホモ・サピエンスだけが残って繁栄しているのか?
 しかも人類が史上最強の動物になったのはごく最近のことでしかない。それはなぜか?
 それは、サピエンスが言語を駆使して、虚構を創作し、それを信じて集団で行動できる能力を獲得したからである。そして、「貨幣」「帝国」「宗教」という制度(これらも虚構の産物)によって文明は発展し、今日にいたる。

 冒頭の壮大な問いかけとその種明かしによって展開される上巻の持つインパクトに比べて、下巻はいまひとつ、という印象だった。ひとつには歴史時代についてはすでに数多の著作によって語り尽くされ、それを超越するだけの内容だとは言いづらいからだろう(もっとも本書のベースになっているのはヘブライ大学の歴史学の講義なのだから、むしろ、先史時代はあんなにぶっ飛んだ講義でいいのか、ということかもしれない)。

 ハラリ博士によれば、人類が遂げた進化があまりに性急すぎたばかりに、生態系がそれに順応できていない上に、人類もまたそれに順応できていないことで、地球規模でさまざまな問題が生じているのだという。しかも、人類は種としては繁栄していても、個体として自由で幸福となったのかというと、そうともいえない。
 「人間がワクチンを開発してコロナウィルスを退治しようとしているけれど、地球からしてみれば、人間がウィルスであり、コロナがワクチンなのだ」といったtweetを目にした・・・たしかにそうなのかもしれない。

 (こ)