ヴォルテール『寛容論』(斉藤悦則訳,光文社古典新訳文庫)

こんな時代だからこそ,広く読まれてほしい。ヴォルテール『寛容論』。

18世紀のフランス。社会の中で圧倒的多数を占めるカトリックと,少数被圧制者のプロテスタントとの対立が続く中,プロテスタントのジャン・カラスが実子殺しの容疑で逮捕され,ほぼ証拠がないにもかかわらず死刑に処せられた。ヴォルテールはその名誉回復を図るため,本書を執筆・出版したものである。

本書のテーマは「寛容(トレランス)」である。「トレランス」は日本語の「寛容」よりもやや意味が広く,「自他の間にみられる思考様式の差異の認識に基づいて他者の立場を容認する態勢」をも意味する(解説299頁)。ヴォルテールは,理性の信頼に基づき,「寛容(トレランス)」の重要性を説いていく。

ヴォルテールが本書で念頭に置いていたのは,あくまでもカトリックプロテスタントとの間の「不寛容」である。しかし,現代においては,特に昨今のような情勢下においては,実に様々な「自他の間にみられる思考様式の差異」に基づく「不寛容」が広まりつつあるように思われる。本書は,現在もなお読み継がれていくべき作品である。

寛容論 (古典新訳文庫)

寛容論 (古典新訳文庫)


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