岩田健太郎『新型コロナウィルスの真実』(ベスト新書)

 時節柄、カミュの『ペスト』を読もうと思ったのだが、書店からは消えている。学校の図書館にも『異邦人』はあっても『ペスト』はなかった。Kindleは苦手なのだが、それしかないか。

 さて。
 本書は4月11日に緊急出版された、神戸大学の岩田教授の語り下ろしである。「あとがき」の日付が3月23日となっているから、録音が行われたのはその少し前、今からちょうど1ヶ月ほど前の情況を瞬間冷凍して保存してくれていると考えてよいだろう。「山場」とされた期間が経過して、全国一斉休校が緩和され、ダイヤモンド・プリンセス号も落ち着き、思ったほど感染者や死者が出なかったので、三連休の陽気に誘われて大挙してみなが街に繰り出したころの話である。

 きわめて興味深いのは、コロナ対策の決定過程における非合理性、そしていわゆる「東大話法」による対策の歪みについての記述部分である。ダイヤモンド・プリンセス号の事例は、まさにその典型である。失敗を認めないから、改善がない。プランAを捨ててプランBに移れない。福島の原発事故がそうであったように、あるいは太平洋戦争がそうであったように。

 基本的に、筆者は日本のコロナ対策はおおむね間違ってはおらず、うまくいっているという立場である。現在も、twitterなどでの発信を見る限り、その立場は変わっていない。しかしながら、本書を読みながら抱いた既視感が正しいとすれば、コロナ対策は新たな「失敗」の事例に加えられることになる。それでは困る。

 この本を、1年後に読み返してみようと思う。そのとき、日本は、世界は、いったいどうなっているのだろう。

新型コロナウイルスの真実 (ベスト新書)

新型コロナウイルスの真実 (ベスト新書)

 

 (こ)