キャリー・マリス『マリス博士の奇想天外な人生』(ハヤカワノンフィクション文庫)

 大先生、北の大地は「緊急事態宣言」 だそうですね。どうかくれぐれもご自愛ください。

 

 新型コロナウィルス感染症のことで、すっかり「PCR検査」という用語を機会が多くなった。どこかで聞いたことがあったな、と思ったら、『生物と無生物のあいだ』に出てきたあれだ。サーファーで薬物やってた企業研究者が、ドライブの途中でひらめいたってやつだ。『生物と無生物のあいだ』は科学エッセイの傑作だと思うが、これに続くものはどうも二番煎じっぽくなってしまって、あまりおもしろいとは思わなかった。ドジョウは2匹もいない。

 さて、PCRのことをちょっと詳しく調べてみようと思ったら、Dr.マリスの自伝があることがわかって購入。訳者は『生物と無生物のあいだ』の福岡先生だった。

 なるほど、破天荒な人だ。スウェーデン国王にも天皇皇后両陛下にもタメ口でずけずけ話しに行って、まったく空気の読めないエピソードがてんこ盛りなのだが、あっちいったりこっちいったりする文章からは、彼がとにかく実験と研究が大好きで、寝食忘れてそれに没頭できることが何より幸せなのだ(彼女とのデートや麻薬やサーフィンも大好きだけれど)ということが、ひしひしと伝わってくる。

 今、「日本からGAFAを」みたいなことが言われていて、学校現場に、やれプログラミング教育だ探究活動だ1人1台パソコンだなどと、次々と手が入ってきている。それはそれで威勢のいい話だとは思うけれど、仮に日本にDr.マリスがいたとして、彼はPCR法を発明できただろうか。かつてWinnyを開発した天才・金子勇氏を潰した厳然たる事実を前にしても、この社会でそのようなことが起きると考えることはできるのだろうか。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

  • 作者:福岡 伸一
  • 発売日: 2007/05/18
  • メディア: 新書
 

 (こ)