2021年の122冊

柚木麻子『BUTTER』(新潮文庫
西條奈加『心淋し川』(集英社
柞刈湯葉横浜駅SF』(カドカワBOOKS
ディケンズ二都物語』(池央耿訳・光文社古典新訳文庫
柚木麻子『ナイルパーチの女子会』(文春文庫)
瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社)
新川帆立『元彼の遺言状』(宝島社)
宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社
奥田英朗『コロナと潜水服』(光文社)
半藤一利ノモンハンの夏』(文春文庫)
大石直紀『二十年目の桜疎水』(光文社文庫
町田康『ギケイキ 千年の流転』(河出文庫
青山美智子『お探し物は図書館まで』(ポプラ社
加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)
大石直紀『京都一乗寺 美しい書店のある街で』(光文社文庫
山口つばさ『ブルーピリオド』(アフタヌーンKC)
松本直也『怪獣8号』(ジャンプコミックス
つるまいかだ『メダリスト』(アフタヌーンKC)
清水茜はたらく細胞』(シリウスコミックス)
日本史史料研究会監修『関ヶ原大乱、本当の勝者 』(朝日新書
日本史史料研究会『南朝研究の最前線 ここまでわかった「建武政権」から後南朝まで』(朝日文庫
谷崎潤一郎『陰翳礼讃・文章読本』(新潮文庫
斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書
谷崎潤一郎吉野葛・盲目物語』(新潮文庫
三浦英之『南三陸日記』(集英社文庫
紀貫之土佐日記』(西山秀人編・角川ソフィア文庫
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
小林道正『学びなおす算数』(ちくま新書
バーネット『小公子』(川端康成訳・新潮文庫
文藝春秋特別編集 永久保存版 半藤一利の昭和史(文春ムック)
山田鐘人=アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館
赤坂アカ横槍メンゴ『推しの子』(集英社
熊倉献『ブランクスペース』(小学館
松岡健太『左手のための二重奏』(講談社
Anthony Bryk,Valerie Lee, Peter Holland "Catholic Schools and the Common Good" (Harvard University Press)
中西嘉宏『ロヒンギャ危機』(中公新書
津本陽『小説 渋沢栄一(上・下)』(幻冬舎文庫
伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉社
塚原直樹『カラスをだます』(NHK新書)
東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで』(小学館
久保田哲『明治十四年の政変』(集英社インターナショナル新書)
ルイス・キャロル不思議の国のアリス』(河合祥一郎訳・角川文庫)
山内マリコ『あのこは貴族』(集英社文庫
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川書店
真山仁ロッキード』(文藝春秋
浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)
三浦しをん『エレジーは流れない』(双葉社
戸田慧『英米文学者と読む「約束のネバーランド」』(集英社新書
井上荒野『百合中毒』(集英社
一ノ瀬俊也『軍隊マニュアルで読む日本近現代史 日本人はこうして戦場へ行った』(朝日文庫
半藤一利保阪正康『昭和の名将と愚将』(文春新書)
ヘッセ『シッダールタ』(高橋健二訳・新潮文庫
最相葉月『セラピスト』(新潮文庫
向田邦子『父の詫び状』(文春文庫)
松本敏治『自閉症津軽弁を話さない』(角川ソフィア文庫
川瀬七緒『ヴィンテージガール』(講談社
西加奈子『漁港の肉子ちゃん』(幻冬舎文庫
原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか約束のネバーランド』(集英社
和山やま『女の園の星』(祥伝社
魚豊『チ。―地球の運動について―』(小学館
諫山 創進撃の巨人』(講談社
萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房新社
一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社
米澤穂信『黒牢城』(角川書店
鈴木宏昭『認知バイアス』(ブルーバックス
東野圭吾『白鳥とコウモリ』(幻冬舎
澤田瞳子『星落ちて、なお』(文藝春秋
東川篤哉『野球が好きすぎて』(実業之日本社
尾脇秀和『氏名の誕生―江戸時代の名前はなぜ消えたのか』(ちくま新書
奥山景布子『流転の中将』(PHP研究所)
トマス・ペイン『コモン・センス』(角田安正訳・光文社古典新訳文庫
西條奈加『婿どの相逢席』(幻冬舎
鈴木由美『中先代の乱』(中公新書
辻村深月琥珀の夏』(文藝春秋
半藤一利『世界史のなかの昭和史』(平凡社ライブラリー
宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫
相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社
川越宗一『海神の子』(文藝春秋
ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』(岩波書店
藤沢周世阿弥最後の花』(河出書房新社
相原瑛人『ニューノーマル』(コミックアウル)
東元俊哉『プラタナスの実』(ビッグコミックス
松井優征『逃げ上手の若君』(ジャンプコミックス
小学館文庫編集部編『超短編!大どんでん返し』(小学館文庫)
モーパッサン『オルラ/オリーヴ園』(太田浩一光文社古典新訳文庫
柚木麻子 / 伊吹有喜 / 井上荒野 / 坂井希久子 / 中村航 / 深緑野分 / 柴田よしき『注文の多い料理小説集』(文春文庫)
墨子』(金谷治訳・中公クラシックス
笠井亮平インパールの戦い ほんとうに「愚戦」だったのか』(文春新書)
NATSUMI『大正浪漫』(双葉社
アンドレヴィオリス『1932年の大日本帝国 あるフランス人記者の記録』(草思社
たらちねジョン『海が走るエンドロール』(ボニータコミックス)
相尾灯自=澤村御影=鈴木次郎『准教授・高槻彰良の推察』(MFコミックス
西 炯子『恋と国会』(ビッグコミックス
梶川卓郎『信長のシェフ』(芳文社コミックス)
映画「MINAMATA ーミナマター」(2020、アメリカ=イギリス)
金水 敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店
江口圭一『十五年戦争小史』(ちくま学芸文庫
プルースト失われた時を求めて 第一篇 スワン家のほうへ I・II』(高遠弘美訳・光文社古典新訳文庫
ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』(新潮社)
ヘミングウェイ老人と海』(小川高義訳・光文社古典新訳文庫
新川帆立『倒産続きの彼女』(宝島社)
川添 愛『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会
松岡亮二編著『教育論の新常識』(中公新書ラクレ
福井県立図書館『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(講談社
青山美智子『月曜日の抹茶カフェ』(宝島社)
横手慎二『スターリン 「非道の独裁者」の実像』(中公新書
砥上裕將『7.5グラムの奇跡』(講談社
中野耕太郎『シリーズ・アメリカ合衆国史3 20世紀アメリカの夢』(岩波新書
NHKスペシャル取材班『ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』(宝島社新書)
龍 幸伸『ダンダダン』(ジャンプコミックス
篠原健太『彼方のアストラ』(ジャンプコミックス
ナガノ『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』(ワイドKC)
グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』(講談社
プルースト失われた時を求めて 第二篇・花咲く乙女たちのかげに I・II』(高遠弘美訳・光文社古典新訳文庫
上間陽子『海をあげる』(筑摩書房
伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』(朝日新聞出版)
濱中淳子『「超」進学校 開成・灘の卒業生 その教育は仕事に活きるか』(ちくま新書
バルザックゴリオ爺さん』(中村佳子訳・光文社古典新訳文庫
青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所
ユゴー『死刑囚最後の日』(小倉孝誠訳・光文社古典新訳文庫
鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)

新人離れした新人の大作。逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』。

1942年,冬。ロシア・イワノフスカヤ村の少女セラフィマは,母とともに狩りに出ていたが――。

独ソ戦における女性狙撃手を主人公に据えた,骨太の物語である。当ブログでも紹介したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』の世界。これが小説となって繰り広げられる。

女性でありながら戦場に放り込まれた主人公。その極限状態の中における怒り,悲しみ,逡巡。なぜ戦うのか,そしてなぜ敵を撃つのか――。

驚くべきなのは,この小説としての完成度の高さである。これがデビュー作とはとても思えない。戦場のリアルさ。物語を通して伝えられる強固なメッセージ。それでいてエンタメ性も失われておらず,むしろ終盤の展開は,小説というものの持つパワーというものを改めて感じさせられた。

とにかく,年末によい作品に出会うことができた。
来年は,どんな作品に出会うことができるだろうか。

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逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』


(ひ)

鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋)

 監督・落合博満についての評価が分かれることは、少しプロ野球に興味があれば誰でも知っている話だろう。8年間で4位以下に1度も落ちたことがなく、リーグ優勝4回、日本シリーズ出場5回、日本一1回。「名将」以外の表現のしようがない。
 それでもなぜ落合監督への評価が分かれるのか。筆者はその理由を「嫌われた監督」という言葉で説明する。

 本書は彼が監督に就いていた2004年から2011年間での8年間を、彼と深く関わり大きな影響を受けた12人の選手・コーチを描くことを通して、落合博満というひとりの人間を等身大に描き出そうとする。
 そこにあるのは、真摯に野球に「だけ」向き合い、人生のすべてを野球に、そして野球に携わる人たちの成長と幸せを願い続ける、野球を愛し野球に愛された、ひとりの男の姿である。

 彼が闘い続けたのは、プロ野球界、あるいは日本のスポーツ界にまん延する、馴れ合いと不合理と不条理であり、それは日本社会の一面でもある。
 そんな落合の監督就任は、周囲からは歓迎されなかった。そこで会社は、組織の中でやる気を失っていた「末席のスポーツ新聞記者」に落合番を押し付ける。そして記者は、落合と触れ合うことで仕事の意味と面白さを知り、ライターとして独り立ちしていく。
 これが、本書に流れるもうひとつの物語である。

 たしかに彼が退任した後、中日ドラゴンズは長い低迷の時代を迎えた。ただし落合はGMとして5年間、球団のフロントで指揮を執っている。彼への評価はこの5年間も見なければならないだろう。また、落合とまったく同じことを、実は新庄ビッグボスが就任早々に選手たちに(まったく違う言い方で)伝えている。もしも新庄率いるファイターズが躍進すれば、落合はやはり正しかったということになろう。

(こ)

ユゴー『死刑囚最後の日』(小倉孝誠訳・光文社古典新訳文庫)

朝起きたら,直木賞候補作発表のニュースをやっていた。

・逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房
・彩瀬まる「新しい星」(文藝春秋
・今村翔吾「塞王の楯」(集英社
柚月裕子「ミカエルの鼓動」(文藝春秋
米澤穂信「黒牢城」(KADOKAWA)

なんだこれは(笑)。近年まれにみるハイレベルなラインナップではないか。
しかも,初ノミネートは逢坂冬馬さんだけなのだが,その候補作「同志少女よ、敵を撃て」は実はデビュー作!
しかもしかも,ちょうど僕が今読んでいる作品・・・!
ちょっとびっくりした(笑)。

---
さて。

バルザックの次はユゴー。といっても『レ・ミゼラブル』はさすがに長い(縮約版でも長い)ので,こちらにした。『死刑囚最後の日』。

死刑囚の書いた手記,という体裁を取った物語である。

とにかくリアル。圧倒的にリアル。全く予備知識なしに読んだ場合,物語だということに気づかずに最後まで読み終えてしまうかもしれない。

死刑囚の苦悩,揺れ動く心,そして迫りくる「死」の恐怖――。読者は本書を通じて,死刑囚の絶望的な日々をリアルに体感する。

なお,本書には「ある悲劇をめぐる喜劇」という作品も収録。これは,上流階級に属する人たちがそれぞれの立場から『死刑囚最後の日』という作品を批判する,という小作品である(メタ小説っぽい)。訳者あとがきによると,どうやら初の邦訳らしい。ちょっと得した気分になる。

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ユゴー『死刑囚最後の日』


(ひ)

青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所)

 おや、このあいだ、青山さん新刊出したところなのに、また出したのか・・・。
 今度はどんな感じで、ほっこりできるのかな。

 ・・・と軽い気持ちで読み始めたら、いつものような、ウクレレ持ったつじあやのの声が脳内BGMで流れ始める書き出しではなく、いきなり、脳内でショパンかベートーベンのピアノソナタが流れ始める。
 舞台は、いつもの東京の街角ではなく、メルボルン。留学生のレイと、地元の青年ブーの出会いから始まる。ブーの友人のジャックが描いた、レイをモデルにしたエスキース(下絵)は、その後数奇な運命をたどり・・・。

 

 いやぁ。
 やられました。

 

 冷静と情熱のあいだ、でした。

(こ)

バルザック『ゴリオ爺さん』(中村佳子訳・光文社古典新訳文庫)

雑誌「ダ・ヴィンチ」のBOOK OF THE YEARが今年も発表!
本年度の小説部門1位は・・・加藤シゲアキ『オルタネート』!!
ジャニーズだとか芸能人だとか,そういうのに関係なく面白かった。
おめでとうございます!

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加藤シゲアキ『オルタネート』と「ダ・ヴィンチ」1月号

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さて。

失われた時を求めて』の中で,バルザックユゴーの名前が何回か挙がっていた。まあ今ならどんなフランス文学も読めそうな気がしてきたこともあり,ちょっと前から気になっていたバルザックゴリオ爺さん』にチャレンジ。

パリの下町,ヌーヴ=サント=ジュヌヴィエーヴ通りにある下宿「ヴォケール館」。ここに一人の老人が住んでいた。その名を「ゴリオ爺さん(ペール・ゴリオ)」――。

・・・などと書くとこのゴリオ爺さんが主人公のようにみえるのだが(そしてそれはある意味でそうなのだが),でも実際は,その隣に住む若者・ラスティニャックの目線で描かれた物語であり,実質的な主人公はこの若者の方だと言っていいのかもしれない。地方の貧乏貴族の家に生まれ,パリで法学を学ぶためにこの粗末な下宿で生活をしているラスティニャック。本作は,うぶな若者である彼が,やがてパリの社交界に出入りし,出世の野心を抱いていくという物語である。

全4章からなるこの『ゴリオ爺さん』(なお,章立ての経緯については巻末解説に詳しい。)。第1章の序盤はやや説明的な文章が続くが,その終り頃に物語が動き始める。そして第2章を経て,第3章はドラマチックな展開が次々と繰り広げられる! さすがバルザックストーリーテラーとしての才能をいかんなく発揮!

そして最終章の第4章。

第3章がこれだけ盛り上がったのだから,第4章はきっと後日譚みたいな穏やかなストーリーになるのだろう・・・などと思っていたら,甘かった。第4章こそが,本作品の真髄であり,バルザックの真骨頂であった。

最後の1ページに至るまで,濃密な話でした。いやぁ読んでよかった。

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バルザックゴリオ爺さん


(ひ)

濱中淳子『「超」進学校 開成・灘の卒業生 その教育は仕事に活きるか』(ちくま新書)

今週は忙しすぎたので、読めたのは1冊だけ。というわけでその本のレビューになります、ごめんなさい。

 

本書は開成高校灘高校の卒業生およそ500人ずつから回収した質問紙調査をもとに、開成・灘/一般大卒の比較や、開成と灘の比較、世代別・職業別の比較など、とにかくちょっとでも有意な差があればとにかくそれについて考察して、新書1冊にまとめ上げる、という、ほとんど職人芸のような本。

教育評論家とか教育ジャーナリストを自称する人たちによって書かれた数多くの「名門校」本が、校長や教師にインタビューしたり、適当に話を聞いた卒業生から適当にイメージを作り上げているのに対し、きちんとした教育社会学学術書になっているところはさすがである。

おもしろかったのは、その後の仕事やリーダーシップに役立ったかという問いに、部活動は有意ではなく、学校行事が効いていたことで、たぶん中堅校では違う結果が出るのだろう。

地方公立トップ校と比較したりするなどいろんな可能性が広がっていると思うのだが、ともあれ、首都圏と関西圏のトップ校は受験による選抜が十分に可能なので、よほどのことがない限り放し飼いにしておけばよい。そしてそれを「全人教育」という言い方をしている。

 

いろいろと考えながら読んだし、メモもけっこうとったのだけれど、いざこうして書くとなると・・・う~ん。

 

来週はいい本探してきます。すみません。

(こ)