星野博美『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)

 先週末、香港で「逃亡犯条例」に反対する100万人規模のデモが起きた。
 5年前の「雨傘運動」の経験を活かし、当局は早めに潰しにかかっている。

 香港と聞いてまず思い浮かんだのは、星野博美のこの傑作ノンフィクションである。
 香港返還前後の香港の街に暮らす市井のひとびとの姿を、彼女のあたたかくも鋭い人間観察のまなざしによって浮かび上がらせる。泥の中の蓮みたいで、なんだか切なくて。はじめて読んだときに、心を鷲掴みにされたことを、思い出す。

 なお、香港社会に関する学術書は意外となくて、岩波新書の『香港』が基本書ともいえそうだ。
 著者のひとりの張さんは10年来の知り合いなのだが、雨傘運動以降、言論の自由がなくなってきたことに危機感を感じて、とうとうこの4月から、日本の大学に移ってきてしまった。
 この先、日本が香港からの「政治難民」の受け皿になる可能性はあるのだろうか・・・なんてことを考えている今も、香港の街路では催涙弾が飛び交い、人民解放軍の特殊車両が貨物列車に乗せられて南へ輸送中なのだという。

 

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

 
香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

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(こ)