木皿泉『カゲロボ』(新潮社)

木皿泉,3作目の小説である。『カゲロボ』。

日常生活にロボットがこっそり溶け込んでいる世界。ささやかな「罪」と「赦し」を描いた連作短編集である。

これまでの『昨夜のカレー,明日のパン』や『さざなみのよる』とは異なり,ちょっとダークな描写も出てくる。正直,前半の方では読んでいてつらい部分もあった。ただ,いずれの短編も,人間誰もが持っている弱さとか,ふらつきとか,影の部分とかをごまかすことなく真正面から取り上げ,なおかつ,それをさらりとした文体の小説に昇華させている。さすが木皿泉である。

個人的には,ちょっと切ない気持ちになる「かお」(雑誌掲載時の当初タイトルは「スペア」。こっちの方がより本質を突いたタイトルではある。)と,元アイドルが主人公のショートストーリー「かげ」が心に残った。この2作だけでも,読む価値は十分あると思う。

カゲロボ

カゲロボ


(ひ)