前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)

 バッタ研究者の前野氏が、2年間滞在したモーリタリアでの研究生活をまとめたものである。それが一筋縄ではいかない。

 トラブルをものともせず前進する生命力はサイバラ先生を彷彿とさせる。仮説を立ててすぐに実験するあたりは科学者としての真髄を見せ、相棒のティジャニと一緒にフィールドワークに出た砂漠で野宿するあたりは、ちょっとした冒険ものである。空を覆う何億匹ものバッタの大群のようすはホラー映画さながら。ウルドというミドルネームをつけてくれた所長は、砂漠で遭難して九死に一生を得て、人生を人のために尽くそうと決めた男の中の男で、「私の履歴書」のような話である。日本の任期付き研究者の悲哀も痛々しいほどに伝わってくる。

 金字塔『ファーブル昆虫記』を読んで昆虫学者を志したドクター前野の、波瀾万丈のモーリタリアでの研究日記。

 1冊で何度もおいしい。

 2018年新書大賞。 

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

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