佐藤友哉『転生!太宰治2 芥川賞が,ほしいのです』(星海社FICTIONS)

今年度の本屋大賞発表まで,あと10日余り。
本命不在の中,近年まれにみる大混戦となることが予想されます。
 
個人的には,瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』を推したいです。
波乱万丈のストーリーでも,ドラマティックな展開でもない。そもそも決してメジャーな作品というわけでもない。それでも,こんな時代だからこそ,広く読まれてほしい作品です。
 
・・・とか言ってみたけれど,深緑野分『ベルリンは晴れているか』も読みごたえがあったし,木皿泉『さざなみのよる』は軽やかに人生を描いていたし,三浦しをん『愛なき世界』は安定の面白さであった。う~ん,絞り切れないなあ・・・。
 
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さて。
 
昨年読んだ本の中で,最も面白かったもの(ガハガハと笑える,という意味で)は,実は佐藤友哉『転生!太宰治 転生して,すみません』であった。太宰治現代社会に転生する・・・というとんでもない設定で,しかも文体が太宰そっくり。いやあ,笑わせていただいた(当然ながら,本屋大賞にノミネートなどされていない。)。
 
こんな小説,もう二度と出てこないだろうな・・・と思っていたら,まさかの続編登場!『転生!太宰治2 芥川賞が,ほしいのです』である。
 
太宰は今回も,現代社会でツイッターを開始し,「不協和音」の歌詞に心打たれ,女子高生アイドルと「安田屋旅館」にお泊りし,講談社に殴り込みを掛け,「カメラを止めるな!」を見て涙を流し,でもやっぱり女性と心中未遂を起こして・・・佐藤友哉,もうやりたい放題です。
 
他方で,しっかりと,現代の小説家を取り巻く問題状況についても触れている。いや,こちらの方ががむしろ本作のテーマではないか。笑いの中に,シリアスあり。前作は,「太宰が佐藤友哉の口を借りて喋っている」感があったが,今作は逆で,「佐藤友哉が太宰の口を借りて(普段は絶対喋れないようなことを)喋っている」感じがする。
 
・・・とか思いながら読んでいると,何だこのラストは(笑)。佐藤先生,どうするつもりですか~(笑)。
転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)


(ひ)