呉座勇一『陰謀の日本中世史』(角川新書)

 最近、中世史が元気いい。2016年の『応仁の乱』を嚆矢として、『観応の擾乱』『承久の乱』などと立て続けに新書が出てきている。
 本書は『応仁の乱』の呉座氏が、中世史にまつわる「陰謀論」や俗説を、次々となで斬りにしていくものである。

 保元・平治の乱、鹿ケ谷事件や義経追放劇、暴君・頼家と実朝暗殺、南北朝の動乱観応の擾乱応仁の乱本能寺の変関ヶ原、と、日本の中世政治史ががっつりとおさらいできる。
 本文中には振り仮名や家系図もちゃんとついていて、一般向けのつくりでありながら、記述の方法はしっかりと歴史学の作法を守り、先行研究の批判的検討と史料にもとづいて手堅く「事実」を積み上げながら、検証が進められていく。抑制の効いた文章ではあるが、熱量はかなり高い。

 「誰かが猫の首に鈴をつけなければならない」という著者が訴えるように、本書は日本中世史における陰謀論を通して、次々と湧き出してくる「陰謀論」とそれを支持する心性のメカニズムを明らかにし、歴史学者として警鐘を鳴らす。その矛先は「反日勢力の陰謀」「日本会議の陰謀」という言葉が躍る昨今の「知的態度として極めて危うい」政治的言論にも向けられる。

 呉座氏は現在、日文研に所属。彼も故梅原猛氏の置き土産のひとりである。

 

陰謀の日本中世史 (角川新書)

陰謀の日本中世史 (角川新書)

 

 (こ)