佐藤友哉『転生!太宰治 転生して、すみません』(星海社FICTIONS)

島本理生『ファーストラヴ』が今年度上半期の直木賞を受賞して5か月。下半期の直木賞ノミネート作の発表が,いよいよ来週17日(月)に迫ってまいりました。

僕がこの半年に読んだ作品の中では,

森見登美彦『熱帯』(文藝春秋
・塩田武士『歪んだ波紋』(講談社
・深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房
垣根涼介『信長の原理』(角川書店

が面白かったです。この中から1,2作品でもノミネート入りすればいいなあ。

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さて。

僕の中での太宰治ブームが高じて,ついにこんなラノベにまで手を出してしまった。佐藤友哉『転生!太宰治 転生して、すみません』。

太宰治現代社会に「転生」し,あちこちで大騒ぎ小騒ぎをする物語である。・・・いや,ふざけた内容だとは分かっています(タイトル共々)。分かっているのですが,これがすっごく面白い。声を上げて笑いながら本を読んだのなんていつ以来か,っていうくらい。

特筆すべきなのは,この小説の文体。なんと太宰そっくりなのである。句読点の打ち方,接続詞の使い方,改行の入れ方から用語の選択に至るまで,何から何まで太宰そのもの。のみならず,その行動様式や思考方法も太宰そのまんま。もう太宰が書き,太宰が語ったとしか思えない。

様々な太宰作品からの引用あり,また太宰自身のエピソードの引用もありで,まるで太宰の人生を投影したかのようなこの作品。太宰が好きで,現代のサブカル(マンガとかアニメとかラノベとかゲームとか)の知識が少しでもあって,最近堅い本ばかり読んでいるからちょっとくだけた本にも手を出してみようか,という人には超お勧めです。

おそるべし,佐藤友哉三島賞受賞は伊達ではない(才能の無駄遣い,という言葉が頭をよぎるが)。妻は先の直木賞作家,島本理生である。

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

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