三浦しをん『愛なき世界』(中央公論新社)

恋愛小説。いや,恋愛「未満」小説というべきか。三浦しをん『愛なき世界』。

洋食屋の見習い・藤丸陽太は,植物学研究室の大学院生・本村紗英がちょっと気になる。いや,すごく気になる。気になるのだけれども,本村はシロイヌナズナの研究が大好きで・・・。恋のライバルは,草!?

ストーリーで読ませる小説と,雰囲気で読ませる小説とがあるとしたら,本作品は間違いなく後者である。コミカルでふわっとした雰囲気が,作品全体を包む。

とはいえ,この作品のテーマ,実は深い。女性と仕事。女性と研究。ともすると深刻になりがちなテーマをさらりと書き上げてしまうところが,三浦しをんの「強さ」であり,「凄味」であろう。

なお,プラスチック製と思われるタッパーを「無機物」としてあるが(354ページ),プラスチックは「有機物」なのでは? そこだけがちょっと,気になった。

愛なき世界 (単行本)

愛なき世界 (単行本)

(ひ)