黒木亮『島のエアライン(上・下)』(毎日新聞出版)

伊丹空港から熊本を経由して天草空港まで、イルカ姿のプロペラ機が飛んでいる。
天草エアラインである。

島民の悲願であった天草空港の開港と、そこに乗り入れる航空会社の確保、それができないならばと自分たちで航空会社を立ち上げ、経営危機を乗り越えていくという、熊本の人達の奮闘を描いた小説。

まもなくバブルが始まろうとする1983年、物語は、細川護煕熊本県知事と、西武の総裁・堤義明が、一大リゾート開発を手がけるところから始まる。この小説は、すべての登場人物が実名で登場する「ノンフィクション・ノベル」である。(ということは、ここで堤氏が同伴してきた秘書=愛人、もほんとうにいたのだろうか?)

事実に基づくフィクションであるならば、いろいろと創作を盛り込むことも可能である。歴史小説であればそれはそれで割り切って楽しめるし、司馬遼太郎坂本龍馬をかっこよく描きすぎて龍馬が別人になってしまうようなことも出てこよう。ただこの場合、登場人物たちはまだ生きている。何が事実で何が事実でないのか、どう距離をとっていいのか、著者のペン遣いがどちらにもとれそうな感じなので、すこしイラッとすることもあった。テーマがとてもおもしろいだけに、ノンフィクション・ノベルというのは諸刃の剣だなぁと思う。

池井戸潤がこの話を書いたらどうなるのかな。下町ロケットではなく、離島のエアラインの話として。

島のエアライン 上

島のエアライン 上

 

 (こ)