村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)

ディストピア小説か,それともユートピア小説か。村田沙耶香『消滅世界』。

2年前の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は衝撃だった。何が普通で,何が普通ではないのかという感覚が,根元から揺さぶられた。その『コンビニ人間』よりも「遙かに力作」(佐藤優片山杜秀『平成史』p436)と評された本作品が文庫本になったというので,読んでみた。

・・・まあ,すさまじい小説ですね。

「恋愛」と「生殖」とが分離した近未来(orパラレルワールド)の日本が舞台である。実験都市・千葉では,「家族」というシステムを放棄し,社会全体で子供を育てる「楽園(エデン)システム」が採用された。主人公・雨音(あまね)の選択は・・・。

我々が当たり前だと思っていた「家族」とか「親子」とか,さらにいえば「社会」とかいった概念が,溶けていく。主人公は叫ぶ。「時代は変化してるの。正常も変化してるの。昔の正常を引きずることは,発狂なのよ」(p155),「世界で一番恐ろしい発狂は,正常だわ。そう思わない?」(p264)と。

何が「正常」で,何が「正常ではない」のか。僕らの感覚が,ぐらつく。

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

(ひ)