森見登美彦『宵山万華鏡』(集英社文庫)

 今日は宵山
 年に一度、夢か現か、京の街にワンダーランドが現れる夜・・・。

 舞台は京都・洛中。7月16日夜、祇園祭宵山の雑踏に迷い込んでしまった小学生の姉妹の話。蟷螂山、南観音山、鯉山、駒形提灯、偽祇園祭祇園祭司令部特別警務隊、金魚鉾、宵山様と孫太郎虫と大坊主・・・。そして姉妹は、結界を破って烏丸通りに出る。京都タワーを見ながら家路を急ぐ。

 森見作品の中では、個人的には『有頂天家族』『新釈走れメロス』と並んで好きな作品である。装丁がまた、幻想的で美しい。

 いらぬことかもしれないが、蟷螂山と鯉山と黒主山が一緒に登場する「宵山」は、2014年の後祭復活によってもうなくなってしまい、バレエ教室のある衣棚町では(休み山である)鷹山のお囃子が復活して10年以内の巡行復帰をめざしている。悠久の時の流れを象徴するはずの宵山という舞台設定が、逆に時代性を感じさせるものになってしまうとは、まさか作者も考えが及ばなかったのではないだろうか。

 ともあれ、京の夏は、山鉾巡行とともに訪れ、五山の送り火とともに去る。
 二階囃子は始まっていて、もうすぐお山や鉾が辻に立ち始める。

 今年も京の街に、ワンダーランドが現れる。
 ぜひ、迷い込みに、いらしてください。

宵山万華鏡 (集英社文庫)

宵山万華鏡 (集英社文庫)

 

 (こ)