島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)

・上田早夕里『破滅の王』(双葉社
・木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋
窪美澄『じっと手を見る』(幻冬舎
島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋
・本城雅人『傍流の記者』(新潮社)
湊かなえ『未来』(双葉社

今週発表された直木賞候補作である。木皿泉『さざなみのよる』は残念ながら選ばれなかった(やはりスピンオフ作品だったからか・・・)。今度はぜひオリジナル作品で勝負に挑みたい。他方,このブログでも推していた窪美澄『じっと手を見る』と木下昌輝『宇喜多の楽土』が選ばれたのは,素直にうれしい。どちらかでも最終的に受賞すれば,なおうれしいが・・・。なお,女王・湊かなえ『未来』については,いずれどこかで書くこととしたい。

ところで,今回,読めたはずなのに読みこぼしてしまった作品がある。島本理生『ファーストラヴ』。・・・いや,読もうかと思ってはいたんですよ。いたんですが,まだ発売直後なので,もう少し書評が出てからとか思っているうちに・・・。まあ,言い訳ですね。

ちょっと悔しいのですぐに買ってきて読んだ。

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さて,その島本理生『ファーストラヴ』である。

臨床心理士の真壁由紀は,ある殺人事件についてのノンフィクションの執筆を依頼された。就職活動中の女子大生・聖山環菜(かんな)が父親を刺し殺したとされる事件である。由紀は国選弁護人を務める庵野迦葉(かしょう)とともに接見に赴くが・・・。

人間関係というのは難しい。特に,家族とか,親子とかいうものは,赤の他人以上に難しいものかもしれない。この小説では,母と娘,父と娘,母と息子,父と息子などといった人間関係に焦点を当て,これでもか,これでもかとその闇とか葛藤とかをえぐり出す。正直,読んでいてつらいところもあるが,それは小説として出来が悪いという訳ではなく,むしろ質の高い小説であるがゆえに,環菜の,そして由紀自身の,つらさ,やるせなさというものが伝わってくるためである。

普段見ないようにしていることについて,光を当てるというところに小説の役割があるとすれば,この作品は超一級の小説であろう。

島本理生,渾身の大作である。

ファーストラヴ

ファーストラヴ

(ひ)