木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋)

デビュー作『宇喜多の捨て嫁』は強烈だった。戦国の梟雄・宇喜多直家とその娘・於葉(およう)を中心に,裏切りあり,策謀ありの世界が描かれた。まるでページから狂気とか腐臭とかが沸き立ってくるようであった。

あれから4年。今度は直家の嫡男・宇喜多秀家を主人公に据えた。木下昌輝『宇喜多の楽土』。

今度は一転,愚直な男の生涯である。父・直家のような謀略の才はない。信長のような凄味も,秀吉のような才能も,家康のような老獪さもない。ただただ愚直に,戦国の世の中を生きていく。

デビュー作のような陰鬱さはないが,これを「洗練された」とみるべきか,それとも「平凡になった」とみるべきか。個人的には,もう少し「狂気」の方に揺り戻した作品も見てみたかったところであるが,まあ,これはこれでよいのかも。

なお,関ヶ原の布陣は,従前の通説とは少し異なる(巻末に2,3行だけ説明が加えられている。)。たまたま本作品と相前後して呉座勇一『陰謀の日本中世史』(角川新書)も読んだのだけれども,これと併せるとその趣旨が分かる。いや~,歴史って興味深い。

宇喜多の楽土

宇喜多の楽土

(ひ)