窪 美澄『じっと手を見る』(幻冬舎)

デビュー作『ふがいない僕は空を見た』は強烈だった。過激な描写,リズミカルな文体。山本周五郎賞を取り,本の雑誌ベスト10の1位に選ばれ,本屋大賞も2位に入り,果ては映画化されてトロント国際映画祭に正式出品された。その結果,・・・2作目以降も似たような作風が続いた。

その窪美澄が,少し,殻を破り始めたのかもしれない。幻冬舎から出た新刊,『じっと手を見る』。

地方の専門学校を卒業し,高齢者の介護士をしている女性・園田日奈(ひな)と,その周囲の人たちを描く連作短編集である。序盤はいつものような描写が続くし,短編ごとに主人公が入れ替わる手法も見慣れた感がある。しかし,本作品には,さびれた地方都市,介護の現場,親の都合で振り回される子供,そして,避けては通れない「高齢者の死」など,様々な問題がさりげなく織り込まれている。そのような中で,日奈を始めとする登場人物らは,いずれも悩み,流され,とらわれ,とまどいながらも,人生を選択していく。

この本のオビには「忘れられない恋愛小説」とあるが,どうなんだろう。僕にはこの本は,もはや「恋愛小説」にとどまらない,人というものを少し掘り下げて描いた作品であるように感じられた。ちょっと大げさかもしれないけれど。

じっと手を見る

じっと手を見る

(ひ)