村山由佳『風は西から』(幻冬舎)

過労自死をテーマにした小説である。村山由佳『風は西から』。

大手居酒屋チェーンに就職した健介は,若くして繁忙店の店長を任されるが,そこで待ち受けていたのは,尋常ではない業務量と,心が折れるほどの叱責だった。彼女の千秋は,そんな健介を心配しつつも,「頑張って。健ちゃんなら,乗り越えられるよ。」と伝えたが・・・。

重い小説である。健介の,そして千秋のつらさがひしひしと伝わってくる。仕事とは,そして会社とは,こんなにも人を軽んじられるものなのか。実際にあった事件を参考にしているせいもあってか,小説とは思えないほどのリアリティが感じられる。

どこを向いてもつらい状況なのだけれども,一方で,千秋を取り巻く人たちは皆,優しい。それぞれの立場で千秋に理解を示してくれる。これはこの小説に差し込む唯一の「光」なのかもしれない。

こんなにも重い小説であるにもかかわらず,読後感はいい。読んでよかったと思える作品である。

風は西から

風は西から

(ひ)