丸山眞男『忠誠と反逆』(ちくま学芸文庫)

 戦後70年、あるいは明治150年、まがいなりにも先人たちが築き上げてきた価値の体系と統治のシステムが、たった5年の間に音を立てて崩れてしまったような、めまいにも似た感覚に震えながら、国会中継を通して見る一部の官僚の姿は、ここは近代国家ではなく、家産国家なんじゃないだろうか、という錯覚すら覚える。

 そうしたとき、霞ヶ関の旧友から届いたメールの中に、「忠誠と反逆」という一言が添えられていた。まだ大学生だった20年以上前にとりあえず読んだけれど、それが自分の中で血肉となって具体的な思索として立ち現れたとは言い難かった。今あらためて読み直すと、丸山眞男全集の角で頭をぶん殴られた、そんな気分になった。

 本のタイトルにもなっている第一論文「忠誠と反逆」は1960年に上梓された。まさに戦後日本の大きな転換点となった時期であり、時の首相は安倍晋三の祖父、岸信介である。彼が蛇蝎のように毛嫌いするデモ隊に、大好きなおじいちゃんが取り囲まれて罵倒されていた、あの年である。

 君主に対する反逆である「謀反」(=大逆罪)と外敵に加担する「謀叛」(=叛国罪)というカテゴリーの区別に始まり、 人間・集団への忠誠と区別された原理への忠誠、そして後者を正当化する論理の存在、明治維新天皇制、新政府への「抵抗」と「反逆」、そうした中での自我の葛藤と緊張・・・こうした関係性を「忠誠」という鍵概念でぐっさりと突き通しながら、論が進んでいく。

 自分はどこに立っているのか? 自分はどうして立っているのか? 自分は何のために立っているのか?

 丸山眞男とか山本七平とか、鶴見俊輔とか吉本隆明とか、もういちどこういうところに立ち返って、近代日本とは何か、戦後日本とは何か、問い直す時期なんだろうか。 

忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相 (ちくま学芸文庫)

忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相 (ちくま学芸文庫)

 

 (こ)