岡潔・小林秀雄『人間の建設』(新潮文庫)

 畑違いのふたりによる対談というのは異種格闘技のようなものでもある。
 この、戦後日本を代表する数学界と批評界の二人の碩学による対談は、昭和40年、新潮の企画で行われたらしい。
 二人は自己主張に走らず、対話のための糸口をさぐり、互いにパスを出し続けて対談は進む。達人どうしの武芸の試合は、素人目にはわからない技の応酬があるとかいうが、まさにそういう読後感である。
 すみません、もっと勉強します。

 この対談から半世紀が経った。知的営みをさせない最近の教育はよろしくない、という話題で盛り上がっていたお二人だが、当時の大学進学率は13%程度(男子20%、女子5%くらい)、高校進学率が上昇を続け、ようやく7割を超えたころのことである。大衆教育社会が完成した今にあっては、先生方は何とおっしゃることだろう。

 ちなみに岡潔先生、このあいだテレビドラマ化されたので、それで書店に平積みになっていたのだろうが、うちの数学科の先生に言わせれば「変人」らしい。こうした尖った知性の居場所ということでも、どうなんでしょう、先生方。

人間の建設 (新潮文庫)

人間の建設 (新潮文庫)

 

 (こ)