村上龍『オールド・テロリスト』(文藝春秋)

 時に小説家は虚実をないまぜにしながら匕首を突きつける。
 村上龍もそんな小説家のひとりといえるだろうか。

  本書が刊行されたのは2015年(連載は2011年からだったらしいが)。ちょうど大阪都構想住民投票で否決され、「シルバーデモクラシー」という言葉が巷間を賑わわせていたころだったか。そんなときに書店でタイトルにひかれて何気なく手にしたのが本書であった。表紙から、有川浩『三匹のおっさん』みたいなものを想像してみたが、そんな甘っちょろいものではない。

  本書の主人公は『希望の国エクソダス』でも狂言回しを演じたセキグチ。妻子に逃げられボロアパートでグダグダの人生を過ごしているセキグチのところに、久しぶりに仕事の依頼が来て、向かったNHKで彼はいきなりテロの現場に遭遇する。セキグチが接触したテロリストたちは、満洲国の亡霊ともいうべき後期高齢者たちで、この日本を再びリセットするために密かに決起したのだという。

 この本に救いがないのは、希望の国エクソダスで登場した、最新テクノロジーを駆使して大人たちを振り回したような生き生きとした若者たちが、姿を見せなかったことである。本書では若者は、希望を失ってテロの実行犯となって登場する。彼らには社会を動かして変えていく元気はない。2002年、「この国には何でもある。だが希望だけがない」と言った中学生のポンちゃんたちは、ゆっくりと死にゆく日本を見捨てた。そして16年後の2018年、若者たちは表舞台から姿を消し、じいさんたちが腑抜けた日本を焼け野原にしようと蜂起して、米軍と激しい戦闘を繰り広げるのである。

 若者が消え、じいさんたちしかいなくなった国、日本。

 そしてその2018年が、まもなくやってくる。

 みなさま、よいお年を! 

オールド・テロリスト (文春文庫)

オールド・テロリスト (文春文庫)

 

 (こ)