藤崎彩織『ふたご』(文藝春秋)

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タレント本,という言葉がある。

文芸の世界では軽い蔑称なのかもしれない。本業じゃないのに,とか,片手間に書いている,とか,タレントでなければ売れない,とか,どうせ語りおろしかゴーストライターでしょ,とか。

タレント本と言われなくなってようやく一人前なんだろう。町田康の小説のことをタレント本という人はもはやいないだろうし,又吉直樹の小説もそろそろタレント本とはいわれなくなっている。

セカオワのSaoriが,藤崎彩織名義で小説を刊行した。『ふたご』である。

最初は,まあ,ブログの延長かな,くらいに思っていた。

それが,意外に,である。意外に読ませる。特に中盤あたりからはぐいぐい読ませる。

もちろん,私小説だから,という部分もある。基本的にSaoriとFukaseの実話をなぞっている(らしい)し,そうであれば誰がどう書いてもそれなりに読ませる話にはなるだろう。また,主人公の内面のゆらぎは危なっかしく,「共依存」という言葉が何度も脳裏をかすめるし(その意味で『ふたご』というタイトルはストレートである。),この点でも小説になりやすい主題だとは思う。

とはいえ,一部でたたかれているほど,悪い小説ではないよ,と言いたい。気になる人は最後の「あとがき」だけでも読んでみればよい。ここだけでも,著者の気持ちが伝わってくるから。

いずれにしても,二作目が勝負だろう。単なる三島由紀夫村上春樹の好きなタレントが書いた一発本で終わるのか,それとも作家への道を歩んでいくのか。

 

ふたご

ふたご

(ひ)