朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)

既に読み終えてから4,5日経つが,まだこの小説のインパクトから抜け出せないでいる。朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』。

北海道の病院で植物状態のまま眠り続ける「智也」と,これを見守る「雄介」。2人の間に横たわるのは,友情か,それとも・・・。

平成の時代における生きづらさを,「平成」という文字を一切使わずに(僕が見落としていなければ,だけど)描き出した大作である。生きがいって何だろう,オンリーワンって何だろう・・・。登場人物たちの焦燥がひしひしと伝わってくる。

ところでこの作品は,先に紹介した「螺旋プロジェクト」の1つ。伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8名9組の作家の競作プロジェクトである。本作では,朝井リョウ本来のリアルな心理描写に,伊坂幸太郎的なファンタジー要素(「海族と山族の対立」など)が盛り込まれ,見たことのない化学変化を起こしている。

最終章は圧巻であった。

死にがいを求めて生きているの

死にがいを求めて生きているの


(ひ)

 

大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)

 新書のジャンルに「自立本」というのがあるんだそうで、自立するくらい分厚い新書本のことをいうらしい(そのまんま)。
 本書も本文630ページの自立本。税別1,400円だから1ページ2円ちょっと。内容は、大澤真幸先生が、講談社の編集者さん相手に社会学史の講義を行い、それを文字起こししたものである。もうコスパ最高。

 帯に名前が出ているだけでも、

アリストテレス、グロティウス、パスカルホッブズ、ロック、ルソー、スミス、コント、スペンサー、マルクスエンゲルス、カント、フォイエルバッハヘーゲルフィヒテフロイトデュルケームジンメルヴェーバーパーソンズ、トマス、パーク、マートン、ミード、シュッツ、ブルーマー、ガーフィンケル、ゴフマン、ベッカー、ルーマンフーコーレヴィ=ストロースデリダブルデューハーバーマスボードリヤール、リオタール、ギデンズ、バウマン、トッド、メイヤスー

・・・と錚々たる面々が名を連ね、さらに派生して登場する社会(科)学者は数知れず。
 読むのにかなり時間がかかってしまったが、その理由はひとえに自らの勉強不足のせいであって、社会学を少しかじったものとしてただただ恥じ入るばかり。

 ところで、AIが発展すればするほど、人間がどのようにものごとを認識したり区別したりしているのかについての研究は進み、社会学情報工学との接近はますます進んでいる。
 これまでも、数学的な思弁と社会学とはたえざる緊張関係をはらみながらも長らく共存してきた。
 かつてはひとつの「哲学」であった学問が細分化されていく過程が科学の歴史なのだが、21世紀にふたたびそれらが融合するのだとすれば、まさに今、転換期に立ち会っているということになろうか。

 この本を読んだ後、いしいひさいち現代思想の遭難者たち』を読み返してみた。あらためて、いしいひさいちは天才だと思う。

 

社会学史 (講談社現代新書)

社会学史 (講談社現代新書)

 

 (こ)

 

東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)

東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』が,玉森裕太主演で映画化されるとのこと。

東野圭吾。一時期よく読んだなあ。そういえば昔,せんせいのウェブサイトに最初に投稿した書評は,確か東野圭吾の『秘密』だったか。

パラレルワールド・ラブストーリー』は初期の作品なんだけれど未読だった。なので今回,ちょっと読んでみた。

かつて一目惚れした女性。今は「親友の恋人」になっている。ところがある日,目を覚ますと,彼女は「自分の恋人」になっていた。どっちが,現実なのか・・・。

設定,うまいなあ。単行本として発売されたのは,1995年。そこから20年以上も経て映画化されるというのは,時代がこの小説にようやく追いついた,ということなんだろう。

映画の予告編も見てみた。そのまま映像化するのは少々無理がありそうなところを,うまくリファインしている感じがする。大ヒットとかにはならないかもしれないけれど,もし評判が良かったら,ちょっと見に行ってみようかな。

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)


(ひ)

吉田兼好作・佐藤春夫訳『現代語訳 徒然草』(河出文庫)

 本棚からポトリと出てきたのが、15年前に買った『徒然草』(佐藤春夫訳)。 

 『徒然草』は高校生のときにも古文の授業の教材に出てきたし、その後もひととおり読んだつもりでいたものだが、兼好法師の「つぶやき」の意味は、人生の後半になってこそ、味わいが出てくるように思う。

 とくに、59段、108段、167段は、ぐさっと突き刺さった。

 今改めて読まれるべくして、本棚から落ちてきたのだと思う。
 これも出会いであり、縁。

 寸陰を惜しむ人はない。これは悟りきってのうえでのことか。ばかで気がつかないのであろうか。・・・一日のうちに、飲食、便通、睡眠、談話、歩行、などのやむを得ないことのために多くの時間を消失している。その余の時間とてはいくらもないのに、無益なことをなし、無益なことを言い、無益なことを考えて、時を推移せしめるばかりでなく、一日を消費し、一月にわたり、ついに一生を送る。しごく愚かなことである。・・・ (108段)

 すみません、スマホいじるの、もうやめます。

現代語訳 徒然草 (河出文庫)

現代語訳 徒然草 (河出文庫)

 

 (こ)

ジョージ・オーウェル『一九八四年』(高橋和久訳,ハヤカワepi文庫)

映画『キングダム』見てきました!
いや~,思っていた以上によかった!
原作の再現度がすごい! ・・・っていうか,そもそも映画として面白い!!
・・・続編,作るのかなぁ。

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さて。

ゴールデンウィークにちょっと時間ができたので,たまには骨太の本でも読んでみようと思っていたところ,たまたま書店で目に留まったので購入。新訳版のジョージ・オーウェル『一九八四年』である。

言わずと知れた,ディストピア小説の代表作である。

全てを管理・監視する全体主義国家「オセアニア」。その真理省記録局で歴史改竄を担当しているウィンストン・スミスは,ある日,「日記帳に自分の考えを整理して書く」という,禁じられた行為に手を染めるが・・・。

この小説が書き上げられたのは1948年であり,小説の舞台(1984年)は「近未来」に当たる。徹底した管理社会。「ビッグ・ブラザー」「二分間憎悪」「ニュースピーク」「二重思考」などの独自の用語。70年以上も前の小説でありながら,今なおその価値を,そしてその意義を失わない作品である。

物語の序盤,主人公は日記帳に書く。「自由とは2足す2が4であると言える自由である。その自由が認められるならば,他の自由はすべて後からついてくる。」――この言葉の重さ,最後まで読むと本当によく分かる。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)


(ひ)

青木理『安倍三代』(朝日文庫)

 安倍晋三は、岸信介の孫である。

 同時に彼は、政治家・安倍寛の孫でもある。その血は一粒種の晋太郎に受け継がれ、そして晋三へと連なっているはずである。しかし、晋三からは「安倍」カラーが見えない。
 それはなぜか。
 筆者は晋三のもう一方のルーツを求めて、寛・晋太郎・晋三の「安倍三代」のゆかりの地を歩き、彼らを知る人たちからの証言を積み重ねる。しかし、寛や晋太郎と違って、晋三にはいくら聞き回ってもエピソードらしいエピソードが出てこない。そこから見えるものは、晋三の「悲しいまでの凡庸さ」である。かわいそう過ぎて、よしよししてあげたくなるくらいである。
 そんな「いい子」でしかなかった晋三が、オオカミの群れに出会って覚醒し、今や祖父や父を乗り越えようとしている。それはなぜ可能となったのか。筆者から投げかけられた問いである。

 本書は晋三の凡庸さを強調するためだろうか、反骨の人・寛や、清濁併せのむ晋太郎を、美化しすぎている嫌いはある。しかし、ほんとうにそうだろうか。安倍晋三は決して単なる凡庸ではないのかもしれない。非凡なまでに空疎だからである。あるいは「凡庸な悪」ほど厄介なものはない。

 本書の元となった記事が『AERA』に連載されたのが2015年。それから4年近くが経ち、安倍政権は悲願の憲法改正に向かって、この国のかたちをさらに押しつぶしながら、今なおひた走り続けている。 

安倍三代 (朝日文庫)

安倍三代 (朝日文庫)

 

(こ) 

橋本治『思いつきで世界は進む』(ちくま新書)

先ごろ亡くなった橋本治について,橋爪大三郎が熱烈な追悼文を寄せていた。
 
 
そうか,このお二人,面識があったんだな。・・・などと思っていると,今度は大澤真幸橋本治『思いつきで世界は進む』を書評欄で取り上げていた。面白そうだったので早速読んでみた。
 
橋本治,最後の時評集とのことである(とかいいつつも,今後もまだまだ刊行されそうだが・・・)。世間が何となく一つの方向を向いているときに,「いや,それはどうなの?」と別の角度から意見を投げかける。橋本治の筆は,短くも鋭い。
 
個人的には,世界情勢を「時計」というキーワードで眺めた「時間は均一に進んでいないの?」(194頁)や,トマ・ピケティを枕に「世界を覆う」理論について懐疑を示した「『世界は一つ』でいいのかしら?」(200頁),SNSからアメリカ・北朝鮮情勢までをばっさり論じた「自己承認欲求と平等地獄」(216頁)などが面白かった。
 
ところで,橋本治の文章,大学入試の現代文では頻出なんだそうな。橋本治を読んで育った人たちが,もうそんな地位(大学入試の出題者側)にいるのだと思うと,ちょっと感慨深いものがある。
思いつきで世界は進む (ちくま新書)

思いつきで世界は進む (ちくま新書)


(ひ)