麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』(角川書店)

ここしばらく重たい本が続いたので,たまには肩肘の張らないミステリを,と思って読んだところ,意外に面白かった。麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』。

事件が起こって,謎があって,それを「探偵」役が謎解きする,という王道の本格ミステリだが,本作品の「探偵」役は伊賀上野の高校生,「伊賀もも」と「上野あお」の2人。1人ではなくて,2人。しかも高校生である。

3つの短編が収録されており,第1話の「伊賀の里殺人事件」と第2話の「夢うつつ殺人事件」は,それなりにオーソドックスに話が進む。第3話の「夏の合宿殺人事件」が秀逸。2人が「探偵」となっていく経緯が語られるのだけれど・・・。この第3話を読んでから,改めて第1話及び第2話を読み返してみると,ああ,なるほどな,と思わせるところがある。

「伊賀もも」の直感力と,「上野あお」の論理力。時として反目しつつも,最終的には2人の力で事件を解きほぐしていく。探偵役は1人っていうミステリ界のお約束に対するアンチテーゼ,と言ったら褒めすぎかも。

ふんだんにちりばめられた小ネタも読者をくすぐる。全体的なラノベっぽさも含めて,現代におけるミステリの一つの形なのかもしれない。

友達以上探偵未満

友達以上探偵未満

(ひ)

是枝裕和『万引き家族』(配給:GAGA、ノベライズ:宝島社)

 柴田治は、妻の信代、息子の翔太、母の初枝、妻の妹の亜紀の5人暮らし。足りない生活費を万引きで補って、なんとか暮らしている。凍えそうなある冬の夜のこと、親から虐待を受けてベランダでうずくまる少女を治と翔太は家に連れてくる。返しにいくのだが、「ゆり」という少女は5人と暮らすことを選ぶ。
 2時間の映画、前半1時間は6人のささやかだが幸せな暮らしが描かれる。ピークは、家族で海水浴に行くシーン。いつまでもこの幸せが続けばいいのに、と誰もが思ったところで、後半、家族が少しずつ、壊れていく。
 6人をつなげていたのは、愛なのか、金なのか、過去なのか、人恋しさなのか・・・?

 ハリウッド映画なら、それでも最後はハッピーエンドで終わらせたのだろう。しかし是枝監督は、そうはさせなかった。結局、何も解決しないまま「家族を装った6人」は解散する。救われない現実世界と、せめて救いがあってほしいフィクションの世界との中間に放り投げられたまま、席を立つ。

 是枝作品を観るのは、「誰も知らない」(2004)、「そして父になる」(2013)に次いで3本目だった。親に捨てられた子どもたち、新生児取り違えに続き、家族三部作とでも言える作品である。正直、「そして父になる」にはちょっとがっかりしていたので、あまり期待しないで観にいったのだが、ずん、と揺さぶられて帰ってきた。

 映像は美しい。役者さんたちがすばらしすぎる。音楽は細野晴臣、沁みた。

 

*映画を観た後で、本を読んだ。聞き漏らした台詞と見逃した演出が、一本の線でつながって、再び、ぐしゃっと心臓を鷲づかみにされて揺さぶられる。

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(こ) 

 

 

 

直木賞ノミネート作品・大予想!

さて,今年も上半期の直木賞の時期が近づいてまいりました。
公式twitterによると,ノミネート作品は「6月中旬」に発表とのこと。
今回は,上半期に発表された文芸作品(全部で数百冊くらいあるのか?)の中から,果たしてどんな作品がノミネートされるのか,独断に基づいて大胆にも大予想したいと思います。

・木皿 泉『さざなみのよる』(河出書房新社

上半期で頭一つ抜け出しているのはこの作品でしょう。最終的に受賞するかどうかはともかくとして,ノミネートは確実だと思います。夫婦ユニットだとか,5年ぶりにして2作目の小説だとかいった話題性も十分。唯一のマイナス要素は,ドラマのスピンオフ作品だということ。これが完全オリジナルだったら,と思わざるを得ません。

瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』(文藝春秋
・窪 美澄『じっと手を見る』(幻冬舎
・木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋

次に入りそうなのが,この3作品。いずれも読んで良かったと思える作品ですし,また,最近は映画にしろ小説にしろ「家族」がトレンド,ということもあります。瀬尾まいこと木下昌輝は「文春枠」でのノミネート入り(そんなのあるのか?)というのも期待できるところです。この3作品のうち,どれか1作品でもノミネートされたらなあ・・・。

・柚月裕子『凶犬の眼』(角川書店

柚月裕子は,ついに,「次に大作を書いたら直木賞」という地位にまで上がってきた感があります(あくまでも個人の感想です)。『凶犬の眼』は3部作の2作目という微妙な位置付けなので,今回のノミネート入りは実際には難しいのかもしれませんが,それでもちょっとだけ期待です。

・赤神 諒『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社

今回,サプライズノミネートがあるとすれば,この作品になるかもしれません。デビュー作にして候補入り。作者は法律家。日経新聞からの出版。もしノミネートされれば地味に話題になりそうですが,さてどうでしょうか。

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いずれにしても,半年に一度のお祭りなので,まずは楽しみながらノミネート作品の発表を見守りたいと思います。
(なお,一部で期待されていた加藤シゲアキは,出走前に落馬の模様です。。。)

(ひ)

 

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吉川徹『日本の分断』(光文社新書)

 東京で5歳児が虐待死させられた事件に、心が痛み続けた一日。

 

 前著『学歴分断社会』では、日本社会の分断線を「大卒」と「非大卒」の間に引き、現代日本では両者がほぼ半分ずつ暮らしていて、前者の子どもは前者、後者の子どもは後者として、階層の再生産が本格的に始まったことを明らかにした。
 本書ではそれを一歩進め、大卒、非大卒の2つのグループを、さらに男性/女性、若年/壮年と8類型に区分し、それぞれの集団に固有の生活状況、社会経済環境、意識、ライフサイクルなどを、社会調査データにもとづく計量分析をベースに解き明かしていく。

 他国の先行研究をひもとけば、社会の分断が先鋭化すれば、失業、貧困、離婚結婚の繰り返し、家族崩壊、ネグレクト、銃、麻薬、窃盗、人種排外、ファシズムといった事例が社会に蔓延するという。

 著者は「共生社会」の実現によって、その危機を乗り越えるべきだと訴える。大卒/非大卒、男女、壮若という垣根を乗り越えて、相互理解と交流を進めて分断社会を緩和することによって、新しい社会をつくろうというのである。

 

 天国では、あたたかいかわいい服を着て、おいしいごはんをたくさん食べてね。
 生まれ変わってきたときには、やさしい人たちに囲まれて、元気に大きくなってね。
 守ってあげられなくて、ごめんね。

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

 

 (こ)

柚月裕子『凶犬の眼』(角川書店)

あの衝撃の警察小説『孤狼の血』に,まさかの続編が出た。柚月裕子『凶犬の眼』。

平成2年の広島県内。田舎の駐在所に左遷された日岡秀一。カレンダーに×印をつけながら毎日を虚しく過ごしていたところに,ある男がやってくる。それは,殺人事件で指名手配中の国光寛郎だった・・・。

前作『孤狼の血』の完成度があまりにも高すぎたし,ストーリー的にも一応完結していたため,「続編」といわれてもなあ・・・という気持ちが読む前にはあった。それが読んでみると,やはり柚月裕子ワールドである。今から30年近く前の空気,それこそコンプライアンスだ何だというのがまだ醸成されていなかった時代の空気というものを,きわどく表現している。

最終的には3部作にするそうで,現在,その3作目を連載中とのこと。最終的な評価はその3作目を読み切ったところであらためて,ということになろうか。

それにしても,作品が予想を超えて大ヒットする → 続編が作られる → 最終的に3部作になる,というのは,映画とかでは昔は割とあった。スター・ウォーズとか,バック・トゥ・ザ・フューチャーとか,マトリックスとか。本作もなんとなく,これらの映画の2作目と共通した雰囲気を漂わせている気がする。野球でいえば2番打者みたいな(当たり前だけど)。

凶犬の眼

凶犬の眼

(ひ)

半藤一利『歴史と戦争』(幻冬舎新書)

 「半藤一利語録」が出た。本書は氏の膨大な著作の中から一段落ずつ取り出してまとめたものである。

 『日本のいちばん長い日』に始まり、氏の幕末氏、近代史、昭和史を一貫する視点は、為政者の偽善、危機にあって浮かび上がる真の知性と勇気であり、そしてその原点は、彼が東京大空襲の中で見た焼夷弾と焼け焦げた人間の塊だったのだろうと思う。

 今、ますます為政者の言葉が酷くなり、それにすっかり感覚が麻痺してしまった中で、軽く勇ましい言葉によって国が滅んだ事実を改めて記憶に留めておく。

歴史と戦争 (幻冬舎新書)

歴史と戦争 (幻冬舎新書)

 

 (こ)

木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋)

デビュー作『宇喜多の捨て嫁』は強烈だった。戦国の梟雄・宇喜多直家とその娘・於葉(およう)を中心に,裏切りあり,策謀ありの世界が描かれた。まるでページから狂気とか腐臭とかが沸き立ってくるようであった。

あれから4年。今度は直家の嫡男・宇喜多秀家を主人公に据えた。木下昌輝『宇喜多の楽土』。

今度は一転,愚直な男の生涯である。父・直家のような謀略の才はない。信長のような凄味も,秀吉のような才能も,家康のような老獪さもない。ただただ愚直に,戦国の世の中を生きていく。

デビュー作のような陰鬱さはないが,これを「洗練された」とみるべきか,それとも「平凡になった」とみるべきか。個人的には,もう少し「狂気」の方に揺り戻した作品も見てみたかったところであるが,まあ,これはこれでよいのかも。

なお,関ヶ原の布陣は,従前の通説とは少し異なる(巻末に2,3行だけ説明が加えられている。)。たまたま本作品と相前後して呉座勇一『陰謀の日本中世史』(角川新書)も読んだのだけれども,これと併せるとその趣旨が分かる。いや~,歴史って興味深い。

宇喜多の楽土

宇喜多の楽土

(ひ)